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神戸地方裁判所 平成3年(わ)385号 判決 1992年4月07日

国籍

大韓民国(慶尚南道晋陽郡寺奉面馬城里九〇九)

住居

兵庫県姫路市飾磨区構七八五番地

遊技場経営

本庄敏夫こと金漢圭

一九三一年三月二八日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官田村範博、松本裕出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年二月及び罰金三、五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、兵庫県姫路市飾磨区今在家一一〇七番地ほか三か所において「飾磨グランド」等の名称で遊技場(パチンコ店)四店舗等を経営しているものであるが、自己の所得税を免れようと企て、平成元年分の総所得金額は三億一、四六〇万七、八三二円で、これに対する所得税額は一億五、二〇八万〇、八〇〇円であるにもかかわらず、売上の一部を除外するなどの行為により、総所得金額のうち、二億八、三二一万五、〇〇一円を秘匿した上、平成二年三月一四日、兵庫県姫路市北条字中道二五〇番地所在の所轄姫路税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得金額は三、一三九万二、八三一円で、これに対する所得金額が一、〇九七万五、三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億五、二〇八万〇、八〇〇との差額一億四、一一〇万五、五〇〇円を免れたものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書

一  被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書二一通

一  金英俊の大蔵事務官に対する質問てん末書四通

一  金英俊、横野修三(二通)、大野秀夫こと桐畑繁雄の検察官に対する各供述調書

一  横野修三の大蔵事務官に対する質問てん末書六通

一  大野秀夫の大蔵事務官に対する質問てん末書一〇通

一  佐野真幸、宮崎臣晏柩(二通)、上野英彦(二通)の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  村上篤司、藤井武之、高木幸司、山内信、中島ゆう子の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書説明資料

一  大蔵事務官作成の査察官調査書一四通

一  大蔵事務官作成の査察官調査報告書二通

(法令の適用)

被告人の判示所為は、所得税法二三八条に該当するので、懲役刑及び罰金刑を併科することとし、その所定刑期及び罰金額の範囲内で、被告人を懲役一年二月及び罰金三五〇〇万円に処し、後記情状により刑法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとし、右罰金を完納することができないときは、刑法一八条により金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。

(量刑の理由)

本件は、パチンコ店四店舗等を経営する被告人が、事業拡張の資金を捻出するため、総額約一億四〇〇〇万円の所得税を逋脱したという事案であるが、その動機に酌むべき余地がなく、逋脱税額も単年度分としては、相当に多額で、逋脱率も約九三・一パーセントもの高率に上っており、逋脱の方法も、自己名義のパチンコ店一店のみしか申告せず、他は営業名義人である長男名義で申告するなどしたうえ、経理責任者に指示して、パチンコ店四店から売上除外の方法により、裏金を作らせて管理させ、他方では、各店の日報、換金場景品日報、コンピューターの売上データ表を廃棄して証拠を湮滅させ、裏金を事業用不動産の取得や自己または妻名義の預金の作出に充て、不正な蓄財を図っていたものであって、納税意識は低かったことなどに鑑みると、犯情は悪質であって、被告人の刑責は重いといわざる得ない。

しかしながら、本件脱税は比較的単純な方法によるもので、複雑巧妙な帳簿操作まではしていなかったこと、被告人は、本件起訴後、税務当局の指示するとおり修正申告の手続をして、逋脱の本税、重加算税、延滞税及び修正後の地方税の全額を納付し、事業全般の経理方法にも改善を加え、十分反省していることが認められること、被告人には同種の前科がないこと、地域社会等への援助活動など被告人に有利な諸事情もあることを考慮し、今回は主文掲記の刑に処するのを相当と考える。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 中川隆司)

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